水星のトランジット

月へのトランジット

伝統的に、水星と月は精神の二つの主要部分を象徴します。水星は理性とコミュニケーションを示し、月は感情、感受性、より無意識的な部分を示します。そのため、水星が出生図の月にトランジットすると、これら二つの機能が関係を結びます。アスペクトの性質によっては調和する場合も、相互に妨害し合う場合もあります。しかし後者であっても、意識的努力によって調和を回復できます。具体的には、この期間、あなたは自分の感情をいつもより明確かつ言語的に表現できます。通常は意識していないことを言葉にできるかもしれません。主に理性的に話していても、普段より感情と感受性が加わります。また、この組合せのエネルギーにより、普段理解しにくい人とも協力しやすくなります。あなたの意識は、十分に表現されていない事柄を理解するための橋を築くことができます。

水星へのトランジット

水星が出生図の水星にトランジットすると、理性的・知的側面が強調されます。交渉やコミュニケーションなど他の水星的機能にも活力が与えられます。車の運転、歩行、電話、メールなど日常のやり取りも含まれます。水星は伝統的に速度と結びつくため、このトランジットによって日常のペースが速くなる場合があります。それが良いか悪いかは扱い方と作業に適した速度かどうかによります。一般に、このトランジットは速いペースへの対処能力を高めます。水星は太陽から28度以上離れないため、水星が出生図の水星と会合する周期は約1年です。誕生日の前後1か月ほどで会合が起こります。

このトランジットの主な難点は、水星が思考内容より速度と効率を重視する傾向にあることです。水星のエネルギー自体は欺瞞的ではありませんが、倫理的に中立です。したがって、水星が出生図の水星にトランジットする間は、適切な道徳的・倫理的背景を自分で与える責任があります。

金星へのトランジット

この二つのエネルギーの組合せは非常に肯定的になり得ます。水星と金星はいずれも調和を扱いますが、レベルが異なります。抽象的な例として、水星は音楽の基礎となる数学的構造を表し、金星は世界における調和の体験を表します。そのため、この二つの相互作用はとても創造的です。実際、真の芸術的創造は水星と金星が協働しなければ起こりません。また別のレベルでは、この組合せは愛情や好意を伝えることにも関連します。ただし情熱を喚起するわけではありません。情熱は金星が他の要素と結合するときに生じます。

火星へのトランジット

一般的に、どのアスペクトであっても、水星の知的・コミュニケーション能力と火星の主張的で力強いエネルギーが結びつきます。これは二つの全く異なる結果を生む可能性があります。第一は破壊的で、第二は対照的に建設的です。火星のエネルギーは戦闘的で自我中心に現れがちです。目的は対立に勝ち、自分の立場を強化することです。一方、水星のエネルギーは、できる限り客観的にメッセージを伝達したり思考したりすることです。これらのエネルギーが悪く結合すると、火星の自我的衝動により、水星が伝えるメッセージの明瞭さと忠実さが歪められます。極端な場合には虚偽や裏切りとなります。軽度のケースでは、討論会で勝ち負けを競うような議論になり、真実が多少曲げられることを示します。

しかし、火星にはより高次の側面もあります。そこでは、高いエネルギーと戦う意志は保ちつつ、自我中心性はありません。高次の火星は、自分の真の道を見つけるため、人々を助けるため、そして守るべき人を防衛するために戦います。低次の火星が利己的であるのに対し、高次の火星は利他的です。この高次の火星が水星と結合すると、人々は個人的な自我を超えた真実のために戦います。警察車両に書かれる「守り、奉仕する」という標語はその例です。警察が常に理想を実現しているとは言えませんが、これが高次の火星の目標です。

木星へのトランジット

水星と木星が双子座と射手座という対向星座を支配するように、この二つの惑星も相補的です。たとえば、水星は情報をできる限り忠実に伝達します。木星はその情報を大きな構造へとまとめます。水星が本の中の単語を支配するなら、木星は本の内容と全体構成を支配します。そして支配星座が向かい合うように、二つは互いに妨げ合うこともあります。水星は細部に没頭して全体目的を見失うことがあります。逆に木星は全体像に夢中になり、情報を明確に伝える方法に注意を払わないことがあります。

木星はメッセージの明快さよりも意図と意味を重視します。私たちの生活では、両惑星の働きが均衡を保つ必要があります。バランスが取れていると、思考も内容も適切に表現されます。社会的観点では、木星は正義と法を象徴します。水星は木星の働きを可能にする法律の細部と文言を象徴します。優れた法制度でも、曖昧な文言によって弱体化することがあります。その逆に、水星は優れた表現力を与えても、内容がひどければ意味がありません。抽象的に言えば、木星は全体構造と形を担当し、水星はその構造を詳細に表現します。

土星へのトランジット

水星と土星のエネルギーは、ある点では非常にうまく協力し、別の点ではかなり困難をもたらします。肯定的には、構造化し制限を加える土星の傾向が、水星の伝達を高い精度と明瞭さに向上させます。また、最高の土星のエネルギーは深く重厚に働くため、時に軽薄になりがちな水星に重みを与えます。老賢者のイメージは水星と土星の組合せです。さらに、ゆっくり慎重に動く土星のエネルギーは、水星の表現を遅くし、より配慮深くします。

しかし、土星のエネルギーが極端に現れると、水星を妨げ、まったくコミュニケーションが行われないこともあります。これは土星が水星にトランジットするときの方が、水星が土星にトランジットするときより起こりやすいでしょう。土星のエネルギーをまだ統合していない人にとって、土星は恐れや秘めた問題を示します。そのため、水星が土星にトランジットすると、その恐れがコミュニケーションを傷つける可能性があります。また、土星的な構造づけが過剰になると批判精神が過度に働き、どんなコミュニケーションも完璧でないと感じて言葉を発しなくなることがあります。この二つのエネルギーをできる限り均衡に保つことが課題です。

天王星へのトランジット

この二つの惑星の基本性質はかなり異なりますが、とても良く協力できます。その違いにもかかわらず、多くの占星家は天王星を水星の「高次オクターブ」と呼ぶほど、しばしば似ていると見なします。しかし水星は個人レベルでも問題なく機能し、超越的な役割も持ちます。天王星は超越的レベルでのみ良く機能します。日常意識では、天王星は突発的で急激であるため、しばしょ不快に感じられます。人体では、両惑星とも神経系と関連づけられ、数学的科学、特に天文学、そして占星術とも関係があります。

両惑星は速度と関連しますが、天王星の場合、その速さは突然で性急に感じられます。この二つの惑星が結合すると、精神機能が高まります。ただし、物事が速くなりすぎて混乱や非効率を生まないよう注意が必要です。この組合せの特別な長所は、水星がまだ見えていなかった可能性を把握できる点です。そのため、発明や発見を象徴します。また、稲妻のように文字通り電撃的、あるいは比喩的に人々の注目を一気に集める効果があります。天王星は通常の現実に新しく急進的なものを持ち込みます。水星はこれに喜んで同調します。ただし両惑星は概してドライで、外交的でなくぶっきらぼうで不寛容になりがちです。輝かしい洞察力を持つため、なぜ他の人が理解できないのか分からないのです。

海王星へのトランジット

このエネルギーの組合せは、強力に創造的にも、混乱や方向喪失を招くことにもなります。問題は、水星と海王星のエネルギーが大きく異なり、多くの点で対立することです。送信側で水星は、思考の形と内容をまず心の中の言語に翻訳し、それを話し言葉や文章にします。受信側では、水星がそれを受け取り、思考へと戻します。段階は多くても、目標は情報損失を最小にすることです。水星は正確なコミュニケーションの論理と本質を象徴し、この過程にいくつかの明確な段階があることも特徴です。

一方、海王星は、理想的には送信者と受信者が完全に一体となり、中間段階を必要としない統合された場を象徴します。海王星的コミュニケーションでは、両者の心が直接かつ媒介なしに結合します。多くの人は、この状態はほとんど達成できないと考えます。したがって、水星と海王星のエネルギーが結合すると、心が完全に溶け合うか、無生物間で送受信者が一体化しない限り、信号の明瞭さがしばしば失われます。水星・海王星のコミュニケーションには話し言葉や文章は必須ではありません。そのため、現実世界では従来の手段がうまく機能しないことがよくあります。水星と海王星の通信が確実に機能するのは、大半が理解されていない方法によって直接的かつ媒介のないコミュニケーションが起こるときだけです。これは、誰かが言葉を介さず状況を直感的に即座に把握するときに最もよく見られます。

実際には、水星・海王星の組合せは誤解を招くことが多いです。最も一般的な原因は、送信者がメッセージの内容をすべて伝えず、受信者が欠落部分を補うだろうと期待することです。また、この組合せによる知覚はしばしば誤りを含みます。それは知覚が偽であるというより、多くの事柄を秩序も分類もなく取り込むため、誤った結論を導きやすいのです。

それでも、水星・海王星の知覚とコミュニケーションは創造的想像力の本質でもあります。日常会話で求められる正確さには欠けますが、純粋に合理的な方法では到達できない洞察をもたらすことがあります。科学史には、研究者が夢の中で難題の答えを得たという事例がいくつも記録されています。こうした現象を否定する人もいますが、実際に起こることはよく知られています。

水星・海王星の組合せは嘘や詐欺をもたらすとよく言われますが、実際はそうではありません。嘘と詐欺には欺く意図が必要です。最悪の場合でも、水星・海王星のコミュニケーションは故意に欺くわけではありません。それは幻想、あるいはより悪い場合は妄想に基づくことがあります。（実務的には、妄想とは誰かが強く信じ込む幻想と定義できます。具体例は容易に想像できますが、どの現象が幻想で、どれが妄想かについては意見が分かれるでしょう。）

冥王星へのトランジット

冥王星のエネルギーと水星のエネルギーには本質的な対立はありませんが、組合せが困難になることがあります。これは、水星が通常、日常の活動とコミュニケーションといった個人レベルで機能するのに対し、冥王星は超越的な惑星であり、日常世界ではあまりうまく機能しないためです。冥王星は長期間にわたって働く力による大きな変容に関係します。それを阻止すると崩壊や破壊につながります。阻止しなければ、冥王星のエネルギーは比較的容易に長期的な変容をもたらします。冥王星のエネルギーが日常世界で問題となるのは主に二点です。第一に、多くの人は変化を恐れることです。変化には古い在り方を手放し、新しい在り方に適応する必要があります。複雑で深い執着があるほど、変容エネルギーを阻止しようとし、その努力が大きいほど、変容は最終的に困難になります。第二に、冥王星のエネルギーを私的な目的で利用しようとする人がいることです。力や支配を求める人々です。ここで冥王星の超越的側面が問題になります。冥王星のエネルギーは利己的な目的のための個人的使用には適しません。たとえある程度成功しても、最終的な結果は不幸です。本人が無事でも周囲の人々にとって不幸です。

水星が冥王星と結合し、そのエネルギーが個人のエゴのために用いられると、マインドコントロールや他者の意思に反して人々を操作しようとする行為、あるいは大衆意識の強制的誘導が生じます。これが極端になるとプロパガンダとなり、最も極端な例がアドルフ・ヒトラーです。広告や広報活動が単なる情報提供を超えて特定の利益を促進しようとすると、それも水星・冥王星の軽度の形になります。真実を歪めながら影響力を強めるほど、破壊性も高まります。

だからといって、水星・冥王星のエネルギーに良い側面がないわけではありません。伝えられるメッセージが重要で力強く、特定の利害集団ではなく、より大きな真実に奉仕するものであれば、このエネルギーは善意をもたらします。

もう一つの建設的な現れは「心の変容」という原理です。これは単なる意見変更ではなく、意識全体とその働き方が一新されることを示します。宗教的回心、さまざまな段階の悟り、心理療法で起こる突破などが例です。集団レベルでは必ずしも善とは限りませんが、社会変動の原動力となる思想やイデオロギーの広まりもこのエネルギーを表します。

キロンへのトランジット

水星はそれ単体で、四つの基本的性質である熱・乾・冷・湿のいずれにもなり得ます。キロンが治癒と統合のモードにあるとき、その性質はやや湿になります。トラウマを生じさせ分離をもたらすモードでは主として乾となります。キロンが完全に湿になることはありません。極端な湿は部分を全体へ統合するのではなく、個別性を消し去るからです。トランジット中の水星と出生図のキロンの組合せは、あらゆる種類のシステムを分析し、それらをより完全に統合する方法を見出すうえで、潜在的に肯定的です。ここで言うシステムには、生体全体、個々の臓器系、社会システムとその中の個人の関係、そして部分を結び付け、全体の中で機能させるあらゆるものが含まれます。総じて、トランジットする水星と出生図のキロンの組合せは、治癒と統合に深く関係します。

水星が出生図のキロンに対して一巡する周期は1年以上ですが、水星の太陽に対する動きとキロンの軌道速度の大きな変動により、実際の長さは大きく変わります。水星の速度が速いときのトランジットは1日程度で終わります。水星が逆行している場合は数日続きます。同様に順行・逆行の留付近でも数日続きます。

ミッドヘブンへのトランジット

水星がMCにトランジットする周期はおおむね1年です。これは水星のエネルギーがキャリア、職業、または天職を通じて表現されることを示します。ただし、MCは人生の使命として同一化している職業を表します。現在の仕事がその説明に当てはまらない場合、この周期は社会の中で自分を定義すると感じる活動により強く影響します。水星のエネルギーは本質的にキャリアに関係します。『Mercury』の語源である“merc”は commerce、merchant、mercantile などの語に見られます。また market にも派生形が含まれます。あらゆる商取引は水星が支配します。マーケティングも水星が支配しますが、販売対象を示す他の惑星も関与します。水星が年1回MCに対してアスペクトを形成するとき、キャリアに関わるこれらの活動の盛衰が示されます。水星がMCに作るアスペクトは、処理しきれないほど活動が速くなる可能性を示す場合を除き、特に困難ではありません。水星は速度を示し、迅速に行われる活動を表します。またコミュニケーションも示します。したがって、これらのトランジットはキャリアに関するあらゆるコミュニケーションも象徴します。これが水星とマーケティングの関係です。

水星のエネルギーがキャリアという媒体を通じて流れる際の主な問題は、エネルギーが倫理的に中立であることです。水星はコミュニケーションの内容を決定しません。水星が正常に働くとき、示すのは情報が正確に伝えられることだけで、それが真実であるかどうかではありません。水星が他の惑星にトランジットすると、その惑星のエネルギーがコミュニケーションの真実価値を左右します。MCは惑星ではありません。それ自体のエネルギーを持ちません。ハウスやアセンダント、月のノードと同様に、MCは活動領域、すなわちキャリアを示しますが、その領域での活動の質についてはほとんど情報を与えません。

アセンダントへのトランジット

水星が出生図のアセンダントに対してトランジットするとき、思考を最も向けやすい生活領域が示されます。また、どのような状況や人物とコミュニケーションを取る傾向があるか、そしてそのコミュニケーションがどの程度うまくいくかも示します。これらのトランジットは、他のいかなる水星とアセンダントの組合せよりも、思考とコミュニケーションの焦点が一年周期で変化することを示します。あるトランジットは他者とのコミュニケーション能力について語り、別のトランジットは受け取る情報の種類と、情報を送ってくる人物の性質を示します。これらのエネルギーは、コミュニケーションの質より量と関与する相手を示す傾向があります。発信者が自分である場合、そのコミュニケーションの質を決定するのはあなたです。もし他者から情報が届き、それが不明確または欺瞞的であれば、必要に応じて明確化を求めるなど適切な行動を取る責任があります。

月のノードへのトランジット

月のノードはネットワークと結び付きを象徴します。このシンボリズムは、神経系のシナプス結合から私たちが働き生活する社会的ネットワークまで、あらゆるものを含みます。水星は情報とコミュニケーションを象徴します。したがって、この二つの占星点には自然な親和性があります。しかし違いもあります。月のノードが象徴する結合は、神経系であれ社会ネットワークであれ、無意識的に働きます。ノードのネットワークを通過するものを見ることは容易ですが、その仕組みを正確に見ることは容易ではありません。現代のインターネットはこの性質を強く示す現象です。データはウェブに送り出され、他者に届きますが、その間どこを通ったかは誰にも分かりません。また多くのデータが「クラウド」という新しいストレージに存在しており、その仕組みについてはさらに理解が浅いのが普通です。したがって、インターネットはノード型ネットワークの優れた例です。社会的ネットワークも同様に機能します。水星のエネルギーは通常、意識的思考を示します。これが水星と月のノードの主な違いです。情報は神経系を通じて伝わりますが、その方法はまだ十分に解明されていません。

水星が出生図のノードに対して一年周期でアスペクトを形成することは、意識的なコミュニケーションが個人の内部から外部の社会ネットワークへと送られるリズムを表します。これは、水星が昇交点（ノースベンディングとも呼ばれる昇交点に対する90度）に達すると比喩的に目的地に到達します。この時点で、コミュニケーションのエネルギーは送信から受信へと切り替わります。水星が下降交点にトランジットすると、そのエネルギーの到着、すなわちあなたがそれをどのように受け取り、何をするかが示されます。そして、昇交点に対する270度（サウスベンディング）で、そのコミュニケーションの結果が個人の世界に可能な限り統合されます。この時点から、次の周期を特徴づける応答が始まります。